永遠にも似た、このひとときに

そのときの私がどんな顔をしていたのか、今はもう、思い出せない。


雨はずいぶん長く続いた。ある人は誰かの涙だと言った。またある人は呪いだと言った。
だが天候にかかわらず、やるべきことというものはあるものだ。黙々と手と頭を動かし続ける。立ち止まってしまうことが、きっと、怖かった。振り返ってしまいそうだったから。
その日も雨が降っていた。

それは涙ではなかった。こんなにも乾き切っているのだから。
そして呪いでもなかった。呪いであるのならば、雨はたちまち姿を変えて私に襲いかかり、一息に飲み込んでしまうだろう。
呪われるべきなのは、私なのだから。
振り返る、呼ばれる声が期待したものでないことに、肩を落とす。
からからに乾き切ってしまったふりをして、そんな反応をする自分が、私は、嫌になった。
息を飲んだ彼を見て初めて、そんなことに気がついた。

私の腕を引いて城内を連れ回した彼の腕を、今度は私がつかんで、二人そろってただ黙りこくっている。
なにも思い出さなかった。ただ、ひやりとした感触だけ、思い出さなくとも、忘れることもできずに残っている。今触れている腕は、私と繋いでいる手は、温かく握り返してくれるのに、その向こう側にもきっと、冷たく硬い未来が待っている。
いつかこの手のひらも温度を失うのだ。

「……なあ」
声に応えず、そっと手を滑らせる。腕から手のひらへ、そして力を込めた分だけ握り返される。
「俺じゃ、あんたを支えるには、足りないだろうし、あんたの道標にもなってやれないけど」
爪先を見つめる頭に、軽い感触。
「でも、ここに、いてもいいかい?」
紡ぐ声と、ゆるやかに髪を撫でるもう片方の手のひらが温かくて、その感覚だけを覚えていたくて、そっと視界を閉ざした。

返答の代わりにそっと手を引く。
口を開いてもきっと声にならなかった。でもなにも言えなくても、せめて、返事をしたい。それが、冷え切ってしまってはいないことの証になると信じたかった。


そのときの私がどんな顔をしていたのか、今はもう、思い出せない。
そのときのあなたがどんな顔をしていたのかも、私は、知らないままだ。
さめざめと泣き続ける雨からかばうように優しく囲う腕は、確かにあたたかかった。